消えた応接間
昔は、ちょっとした家では応接間というものがありました。いや、今でも一部屋を来客専門の応接間にしておられる家もあるでしょう。しかし、最近ではこの応接間をわざわざ造る人は減ってきています。ことマンションにいたっては、極端に言えばベッドルームとキッチンとリビングルームだけでできており、応接間などというものはついぞ見かけません。
これはどうしたことなのでしょう。来客がないのか?いやなくはないが、減ったのか?もっとも、来客といっても昔のように仕事の関係者が自宅に来るということはほとんど無くなりました。首都圏に特に顕著ですが事務所は東京都内だが自宅は都下、神奈川、埼玉、千葉で会社の人も、社宅は別にして(これも減りましたが)それぞれの自宅を訪ねることなどは、まれなことになりました。地方ではまだこうした交流もあるかもしれませんが、東京のサラリーマンの社交応接間は会社の応接間か、焼き鳥やや一杯飲み屋だったりしてお客様(?)と交流しています。奥様同士だって、ファミリーレストランや、しゃれたティルームで社交をしています。
つまり、自宅に改めて招くというのは、よほどプライベートな、親密な関係の人だけで、仕事や行事(結婚葬儀)などのいわゆる「ハレ」(晴れ、ともいい非日常の行事のこと。晴れ着、などがその名残)のことは外部化し、「ケ」(日常、穢れ(けがれ)ともいう)の部分のみが住宅に残ってきた、というわけです。このような暮らし方の変化が、同時に住宅の機能の一部である応接間という部分を必要としなくなってきたという現象に現れているのだと思います。
人を迎えるためにお茶席では庭を掃き清め、水を打ち、花を活け、軸を選び、香を焚き、茶席を設え(しつらえ、と読みます。「室礼」とも書きます)ます。これは、「ハレ」の行事です。
こうした、日本に昔からある伝統文化も現代の家で行われることも減ってきています。リビングルームで寝転がってやるテレビゲームや、散乱するスナック菓子は、やはりその部屋の使い方を考えさせられます。もはや家の中は、「ハレ」の場はなくなり「ケ」の場所ばかりになったのかもしれないと思ってしまいます。
ところで、応接間が無くなって、その代わりを引き受けてきているのがリビングルームでしょう。分譲マンションのモデルームのリビングルームの設え(しつらえ)を見るとそれがよくわかります。お客様をお招きするようにダイニングルームもテーブルセッティングができているでしょう?ワイングラスがあって、ランチョンマットも素敵に、ちょっと洋書(なぜか・・)などもおいてあり、和室も座椅子に座卓でパーティか宴会スタイルになっていますよね。これは、モデルルームを設えるスタイリストやデザイナーさんの仕事で、いわば「ハレ」の場の演出をしているわけです。
むかしの一戸建ての家であれば奥の間の客間で行う場面が、リビングルームに続いた和室で行うことになるのですが、でも実際にモデルルーム和室の設えのように使われるケースはあまり多くないように思えます。むしろお客様がこられたときは、やはりリビングダイニングのテーブルでご接待、ということがマンション生活では多いようです(現に当社で販売しているフェリズ八千代中央というマンションのモデルルームには和室は無くしてあります。ご希望による仕様変更ができる、というわけです)
リビングルームに招き入れるお客様は、かなり親しい間柄の方ばかりでしょう。(何せリビングルームとは家族のためのものだったわけですから)そういう意味でマンションを訪れるお客様も変わってきているように思います。日本の昔からある「ハレ」と「ケ」のけじめも徐々にその垣根を低くしてきているようです。「ざっくばらんに」「きさくに」「肩肘張らずに」「リラックスして」というおもてなし(?)の言葉は、なにやら「けじめ」という日本古来の美風を薄れさせる効果も生んでいるといえます。いや、案外、マンションとういう都市型集合住宅の中で、新しいハレとケの文化を作り出しているのかもしれませんが。